アカルイカテイというタイトルで広島市現代美術館で展示が開かれている。
そもそも「家庭」とは何なのか?
家庭という言葉は明治時代につくられた概念らしい。
もともとは、日本は家制度で成り立っていたし家庭というのは各家族が一般化してきた頃だろうか。明治、大正、昭和を経て令和に入った現在では家族も多様化してきたように思う。
言い換えれば、まわりが個人を認めて対応してきたのかもしれません。
この展示を通してあらためて、今の家族、家庭を考えるきっかけになればいいのではと思う。
今回は、明治大正生まれの作家から、現在活躍中の作家迄11人の作品が展示されており、絵画、食器、写真、ビデオアート、映像といろんな切り口から家族や家庭の成り立ち、時代の流れ、色々な考え方を見て行けるのではないでしょうか。
個人的には、家庭がテーマになっていますが、女性としての生き方や生き辛さ、環境などに共感し考えさせられた企画でした。
以下に11人の作家・作品に関しての概略をメモしています。
江上繁雄 絵画
(1912-2014)
まず初めに 明治生まれの江上繁雄。
彼は生涯日曜画家としての作品を残しているが、多くはクレヨン、クレパスで描かれた作品で、油彩の作品はありません。それはおそらく金銭的な問題で、当時、彼とその母親は親戚の家に間借りして暮らしていたからでしょう。
作品の一つに赤い箪笥が描かれた物が出展されているが、これは母親の嫁入り道具だったそうです。
森正洋 陶磁器
(1927-2005)
森正洋は、「無印良品で和の食器シリーズのデザイナー」と言えばわかりやすいかもしれない。第1回グッドデザイン賞「G型しょうゆさし」をデザインした方なのだが、「G型しょうゆさし」は若い方は頭に浮かばないのではないだろうか。実際わたしも、まったくわからなかった!
「G型しょうゆさし」がわからなくても平型飯椀の可愛さはわかる。
なぜ、この茶碗が展示されているかだが、それは家族構成の変遷を表わしているからだろうか。
昭和の初め、中頃までは、食器は同じ絵柄の5客セットが販売されていた、ということは、母親父親、子供2人にお客用を足して 5客セットなのだ。
ああー、そうかあ。それまでは成人したら結婚し子供を二人作って・・というのが望まれてる家庭像だったんだろう。そこを、森正洋は個人に焦点を切り替えて各人思い思いのお茶碗でご飯を食べたらいいんじゃないか?と提案してくれたのだろうか。
結婚の選択、出産の選択、・・・5客セットはお客様にお出しして、私達ももっと日常生活を楽しみましょう!と。
普段の生活に自分の好みの茶碗を使う楽しみを提案してくれたのかもしれない。
このご飯茶わんは、1つ3000円。自分用のちょっとした贅沢に。
桂ゆき 絵画
(1913-1991)
女性という立場と闘いながら画家の道を開いた桂ゆきの作品は力強く逞しいし大らかでもある。
父親が長州出身で東京帝国大学の教授という家に生まれた彼女は、なかなか自分の思いを口に出来なかったようです。日本画は手習いとして認められたけど女性で油絵を描く、自由に表現するというのは「女のくせに」とか、まわりから色々あったようです。
展示作品は「積んだり」と「Work」
「積んだり」は、家の屋根に色々な物が積まれて家が押しつぶされている様子の絵。
「Work」はその14年後の作品で、コラージュの技法も使われており描かれてあるモチーフもユーモアのあるものになっている。
潮田登久子 写真
(1940-
冷蔵庫、帽子、図書館の本など時間が経つにつれ、人の痕跡が残っていったものを撮っている。
親子3人の貧乏暮らしが始まった時に、夜中に聞こえてきた冷蔵庫の音に不安になりながらも、先のことを心配しても仕方ないと、自宅の冷蔵庫を撮影したのが始まりだったそうです。
友人、知人の冷蔵庫を撮らせてもらい展示が好評だったため現在も撮影は続いているそうです。
主婦の方には結構人気で、他人家の冷蔵庫を見ながらその時代の思い出とか蘇ってきます。
出光真子 ビデオアート
(1940-
同じ女性として作家、母、として葛藤していた出光真子のビデオアートは衝撃的で、印象に残っています。
1980年代、家庭にビデオが入ってきた頃、ビデオと子供が主婦の空白を埋める物となると予感した出光真子って鋭いなあと思う。
おそらく1960年、70年頃には働く母親がでてきて80年代専業主婦ばかりではなかったと思うけど、フルタイムの方は少なかったのだろうか。
「主婦の一日」と「英雄ちゃん、ママよ」という映像作品
「主婦の一日」は、決まり切った主婦の日常を「眼」がずっと見ているという作品。
「英雄ちゃん、ママよ」は、現実の夫との生活より巣立った息子の映像と暮らしている母親の話。起床してから就寝まで母親がビデオの息子の映像に話しかけている。
この頃、出口真子自身も結婚し2児の息子の母となっていたが、家事、育児に追われながら自分の作品を作りたいという欲求と葛藤のなかで出来たのが、ビデオアートという作品だったようです。
小西紀行 油彩画
(1980-
自身の幼い頃の家族写真をもとに制作された油彩画です。2019年の新作14点の展示です。
特徴は大きなストロークで描かれた身体と、顔の部分にも同じように上からストロークが入っているということでしょうか。
絵を描くと自然と人の形が出てくるそうです。
和田千秋+愛語 絵画
(1957-/1987-
長男愛語君が脳障碍を持って生まれ、そこから現代美術のリハビリテーションとして障碍の美術シリーズに取り組まれました。
父親千秋さんが描く息子の絵と息子である愛語君の作品の展示
川村麻純 映像
(1975-
家庭科教育に焦点をあてた映像から、戦後から現在の教育変遷などを見てとれます。
ご自身が家事が好きだということ、良妻賢母的な考えがあるのではと思ったことが、家庭科教育の歴史を調べるきっかけになったそうです。
ひろいのぶこ 布と工芸作品
(1951-
布や染織の工芸品の展示。
佐々瞬 映像
(1986-
暮らしの手帖がきっかけとなった映像作品。
暮らしの手帖の読者を訪ねて戦中戦後、どうやって工夫して生活されたのかインタビューした映像と佐々さんがお礼の意味で創作された人形劇の映像。
ここにでてくる暮らしの手帖、花森安治の「一銭五厘の旗」が印象的で、図書館で借りてきて読んでみました。とてもいい文章で、本当に庶民を愛しく思われていたのが伝わる本でした。
植本一子
(1984-
主に彼女の周りをとりまく家族や知人の写真の数々。